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聖域 ⑧

忙しい日常の中でコウヘイは5歳になった。
ある日の昼 リョウヘイからアキコに電話が入った。
「日本に帰れるよ!」
中国の現地法人を立ち上げるために、リョウヘイは責任者として、求められているもの以上の成果を出し、実績をあげて日本に帰ることになったのだった。
帰国までの間 リョウヘイはいつにも増して 嬉々として引越しの準備をした。
まだ1度しか日本に行ったことのない息子に日本にいる双方の家族の写真を見せながら饒舌に日本の話を聞かせた。
飛行機が成田につくとコウヘイを抱っこしながらリョウヘイはうれしそうだった。
タクシーの中で一人前に話すコウヘイの話をうん、うんと優しく頷きながらリョウヘイ達3人は自分たちの家に向かった。
四谷の社宅につくと、と言っても瀟洒なマンションだが、すでに届いている多くのダンボールに囲まれて、リョウヘイとアキコはホット一息ついた。
すでに7時を過ぎていたのでリョウヘイは食事に行こうとアキコに声をかけた。
リョウヘイがかつてよく行った赤坂の和食屋に連れて行き、思い切り和食を堪能した。
5歳のコウヘイには店の雰囲気が少し大人っぽかったがアキコの料理上手なおかげで何でもよく食べる子供だった。
アキコはコウヘイのために茶碗蒸しやマツタケご飯など、子供が食べられそうなものをいくつか注文し、自分たちは刺身を肴に日本酒を飲み始めた。
「とりあえず、無事に日本に戻ってきてよかった!」
リョウヘイは上機嫌だった。
日本に戻ることが決まったとき以来リョウヘイが嬉しそうにしていることがアキコを少し不安にさせていることをリョウヘイは全く知る由もなかった。
「考えすぎ・・・」
「私たちはコウヘイが生まれてからこんなに幸せでいる。今だって幸せ・・・」
アキコは今日 飛行機の窓から成田が見えたときに、ロンドンに赴任そうそうリョウヘイと絵里の関係で動揺した数日間を、封印していた記憶を呼び起こしてしまった。
その不安もコウヘイのおかげで乗り切ってきた何年かがある。
外国では全く感じることのなかったこの不安が東京に戻ってきてから自分の中で小さな芽になっていることを感じていた。
東京に戻ってからはリョウヘイの世田谷の実家、国立のアキコの実家にコウヘイを連れて行くことで週末が忙しかった。
日本に戻る前からお互いの実家の親達が「コウヘイを連れてきて・・・つれてきて・・・」と、それぞれスケジュール組まなきゃとため息をつくほどラブコールがすごかった。
アキコに似て人懐っこいコウヘイはすぐに実家の親たちに馴染み、「今日は泊まれる?」とか「今度はいつ来れる?」と双方の親たちに哀願された。
リョウヘイも帰国してからしばらくは様々な仕事の引継ぎなどや、歓迎会や上司からの食事の誘いなどで毎日忙しかった。その間にコウヘイの幼稚園を探したり、東京のアキコの友人と久しぶりに会ったり、その忙しさのおかげで一日がとても早く感じた。
東京の生活に慣れると、いつもと変わらず、コウヘイをかわいがりアキコにも優しいリョウヘイを見ながら、その小さな不安も忘れかけていた。
季節がひとつ過ぎると、穏やかな日常が訪れた。
コウヘイに会いたがる双方の両親のために週末はやはりどちらかに行くことが多かったが、アキコは幼稚園にコウヘイを迎えに行き、母親たちのお茶の時間を共有したり、習い始めたスイミングスクールに連れていったりする毎日だった。
リョウヘイは連日帰宅が遅かったため、コウヘイが8時すぎに寝てしまうと長い夜を一人ですごした。
こうやって落ち着いた日々が訪れると、アキコは余計なことを考えるようになった。
少なくとも今の生活の中に絵里の影はまったくないのに、いつも近くに絵里がいるような気がした。リョウヘイに絵里のことを話題にしたら彼はなんて答えるだろう・・・アキコはコウヘイが眠ってからの一人の時間が怖かった。
ある日 アキコはコウヘイを連れて銀座のデパートに出かけ、何点かのコウヘイの洋服を買った。食欲もあり、体格もいいコウヘイは今着るものがすぐ小さくなる時期だった。
アキコ自身の洋服や、リョウヘイのネクタイなども見たが、買わずに帰ることにした。
一階の化粧品コーナーでアキコは足を止めた。しばらく眺めその中の一つを買おうと手にとる。
店員が「プレゼントですか?」と聞くとアキコは自宅用ですと答え、それを受け取り帰宅した。
夜になるとコウヘイと一緒にお風呂に入り彼を寝かしつけた。
コウヘイの部屋から出るとアキコは今日買った小さな箱を取り出してしばらく眺めた。
11時すぎにりょうへいが帰ってきた。
アキコは手早く食事の用意をしてテーブルに並べはじめた。
リョウヘイは風呂から出ると、バスタオルで髪を拭きながらリビングのソファに座った。リョウヘイの前に小鉢を差し出したとき、リョウヘイが箸を止めた。
「コロン 変えたの?」
「気づいた?今日 コウヘイと銀座に行って・・・」
そう言いかけてキッチンに行こうとするアキコをリョウヘイが突然 抱きしめた。
目をつぶるアキコ・・・
ずっとアキコを抱きしめながらリョウヘイは思い出していた。
絵里の残り香だった・・・
アキコはリョウヘイの腕をはずし、「冷めちゃうわよ」と小さくつぶやいた。
ハッとするリョウヘイの顔。
リョウヘイを見ながらアキコは 今 目の前にいる男は絵里を思って私を抱きしめた・・・
諦めたようにそう思った。
今日買ったコロンは昔 絵里と何度か会った時に、抑えた品のいい香りをいつも感じて絵里に尋ねたことがあった。
絵里はそのコロンがブルーノートと伝え、
「でも アキコさんは若いし、これじゃ少し落ち着きすぎてるわよね」
そんなやりとりを今日思い出して買ったのだった。
リョウヘイを試そうとしたのではなく自分も年を重ね、いつまでも甘い香りのコロンは似合わなくなってると思って買ったつもりだった。
この香りをリョウヘイはたまらず私を抱きしめた。
いや、私は夫を試そうとしたのだ・・賭けをしたのだ・・・
「先に休みます」
アキコはそう言うと寝室に行った。
ベッドに入るとアキコはいろいろなことを思い巡らした。
コウヘイが生まれてずっと幸せだと思い続けてきた。
実際にリョウヘイはコウヘイを愛し自分にも優しかった。
東京に戻ってからのこの不思議なあせりをどうすればいいのかわからなかった。
今 二人が不倫を続けているわけでもないのに 自分はなぜこんな被害妄想を抱くのだろうか?
そう 単なる思い過ごしと思いたかったのに・・
彼の中に10年以上たった今でも絵里がいたことを感じてしまった今、自分はどうすればいいのか考えた。

リョウヘイは一人残されたリビングでビールを飲みながら考えていた。
絵里のことは忘れようとしてきた。
自分の中の絵里の存在がアキコを苦しめ彼女を悩ませたこともあった。
だがコウヘイが生まれるとその存在の愛しさにリョウヘイは自分でも驚くほどコウヘイをかわいがった。
コウヘイが自分を必要としてくれるのを肌で感じそれをまっすぐ受け止めると自分が父親になれた満足感を感じた。
長い海外生活の中で明るく努力してくれたアキコに感謝し誠実であろうと努力した。
ただ、誠実であることは愛していることとは違う。
また、本当に自分が誠実だったかどうか・・・
アキコを心配させたとおり、絵里を心の中から拭い去ることはできなかった。
アキコとベッドを共にしても自分が満たされたかと聞かれれば頷くことはできなかった。アキコもそれを感じていただろう。
リョウヘイは銀座の喫茶店で絵里に言われたことを思い出していた。
「家庭を作り、家族を幸せにするのがあなたの役目・・・」
自分の未練のせいで絵里を傷つけ、幸せだったはずの彼女の家庭まで壊してしまった。
結婚式の日に絵里はさわやかな笑顔で言った。
「アキコと一生添い遂げてほしい」と。
自分とのことはすでに過去のものとでも言いたげな表情で。
思い出しながらリョウヘイは絵里を無性に抱きたいと思った。
絵里の白いうなじにキスをし、細い肩を抱く。
手の中の、絵里の暖かい乳房の感触。
胸の鼓動・・・
ソウルで再開し一晩中戯れあったあと、裸のまま自分の胸にもたれて眠ってしまった絵里の寝顔・・・
この東京のどこかで絵里は一人で生活しているのだろうか・・・
それとも誰かと結婚して幸せに暮らしているだろうか?
自分の絵里に対しての気持ちは何なのか。
白馬で初めて出会ってから何年経つというのだ・・・
自分が結婚してからだって10年もたっているのに、なぜ忘れることができないのか?
絵里を抱きたくて逢瀬を重ねた。
会っているときの静かな満たされた時間。
彼女の体のことだけで自分の思いは続いているのか?
それとも愛だろうか?
「いい歳をして何を言ってるんだ・・・」
リョウヘイはアキコの眠る寝室に行くことができず一人の夜を過ごした。
翌日、いつもどおりの朝。
リョウヘイは、今日は接待で遅くなるから夕食はいらないとアキコに告げ、出勤した。
11時過ぎにリョウヘイが帰宅すると室内は真っ暗だった。
リョウヘイはいぶかしく思いながら明かりをつけるとリビングのテーブルの上に置手紙があった。

「コウヘイを連れて国立に帰ります。
 しばらく 落ち着いてあなたとのことを考えようと思っています。  晶子」

国立の実家で洗濯物をたたむアキコにコウヘイが尋ねた。
「ねえ パパは?パパはいつ来るの?」
「パパはね お仕事で・・・」
そう言おうとするとコウヘイが泣き出してしまった。
国立に戻ってから一週間がたち、最初は旅行気分で喜んでいたコウヘイもさすがにリョウヘイに会いたがりアキコを困らせた。
何もいわずに実家に戻ってきたアキコに両親は何も聞かなかったが、リョウヘイを思い出して泣くコウヘイを見ると両親もかわいそうになって、帰ろうとしないアキコを心配し始めた。
アキコが和室のコタツに入って新聞を読んでいる父親に夕食が出来たわよと伝えに来た。
腰をあげながら、父親はアキコに言った。
「リョウヘイ君 浮気でもしたのか?あいつはいい男だからな 女性はほっとかんよ。
だが、アキコ、お前も新婚さんじゃあるまいし1度や2度の浮気くらいで動揺するな」
父親の言葉に
「そんなんじゃないのよ」
とアキコは小さな声でつぶやいた。
浮気なんかじゃない。
結婚してからリョウヘイさんは一度も絵里さんに会ってない。
でも何年たっても断ち切れない彼女への思い、それは浮気なんかじゃない・・・

由香は自分の部屋の本棚でアメリカの大学で勉強してきた何冊かの分厚い本を探していた。
女は由香に昼食を運んできた。
「ここに置いとくわよ。」女が立ち去ろうとすると由香が言った。
「・・・私も下で食べる・・・」
由香は枕の下の睡眠薬の瓶を女に見つけられ二人で抱き合って泣き続けた時から少しずつ女に心を開くようになった。
少しずつ話が出来るようになった。
女は嬉しかった。
いつもと変わらずに家事をしながらも一言由香と言葉を交わしただけで嬉しくてたまらなかった。
由香はいろいろなことを話そうと思っても照れくさくてなかなか昔のように話すことがまだ、できなかった。
その夜、夫が帰宅すると女は自宅に戻った。
女の用意してくれた夕食を夫と由香は一緒に食べながらいろいろな話をした。
由香の顔にようやく笑顔が戻ったと夫は安心した。
「パパ、私 日本の大学でもう一度心理学を勉強しようかと思ってる」
その言葉に驚いて夫は口を開く。
「賛成だね。アメリカで勉強したこともきっと役に立つと思うよ。大賛成だ」
由香はうれしそうに笑った。
そして父親に聞いた。
「ねえ パパはママのどこが好きだったの?」
「うーん ママは昔から自分をしっかり持った凛とした女性だったし思いやりもあった。自分自身がキチンとしているからこそ相手を思いやれるって事だよね」
「ママの事で離婚してパパはママが嫌いにならなかったの?」
「・・・信じられなくてその時は相当落ち込んだ・・でも夫婦じゃなくなったけどママは一番近い友人としてこれからもずっとつきあって行きたい女性なんだ。」
首をかしげながらも由香は両親がお互いを認め合ったいい関係であることが嬉しかった。
「私、中学生のとき、仕事をしながら毎日いきいきとしているママのこと すごいと思ってた。自慢だった」
そう言うと心の中で
「今もそう思ってる」
とつぶやいた。
「そう?!その言葉、ママが聞いたら喜ぶよ!」
そして続けた。
「由香もやりたい仕事をみつけて思いっきりやってみなさい。でもね」
と夫は一瞬ことばをさえぎり
「結婚したら、ママよりも、もう少し だんな様に甘えた方がいいぞ!」
二人は笑った。
夫は自分の寝室に戻ってから パソコンを開くと、女にさっき由香と話した事をメールで伝えた。
長い長いメールだった。

春のなりかけだった。
リョウヘイは国立に戻ったアキコとコウヘイのことで心を悩ます日々が続いた。
国立にも出向き、何度か電話もした。
コウヘイは父親を見ると嬉しそうに声をあげて胸に飛び込んできた。
アキコは相変わらず頑なだったが、国立の家を出るときに泣き叫ぶコウヘイを思ってリョウヘイは自分を責めた。
絵里への思い・・・
心の中に住んでしまった女を消し去ることがどうしてもできなかった。
こんな気持ちだからアキコとコウヘイを不幸にさせている。
国立から戻ると自分がどうしたらいいのかいつも考えた。
今の自分ではアキコは受け入れてくれないだろう。
離婚することになるのだろうか・・・
リョウヘイは昔から全く変われない、孤独な自分の性格をうらんだ。
ただ、今はコウヘイがいる。自分を求めて泣くコウヘイを思い出すとどうしていいのかわからなかった。

ある日の土曜日、リョウヘイは狭心症で入院している父親の見舞いにまた病院を訪れていた。
会計を待つ、ひとけのまばらな、長いすの羅列の端に絵里が座っているのが見えた。
リョウヘイは絵里に向かって歩き出した。
「お久しぶりです・・・」
リョウヘイが声をかけると絵里は少し驚き、笑顔で会釈した。
少し話しをしていいかとリョウヘイは絵里に尋ね、絵里の会計が済むのを待って、病院内のレストランに入った。
絵里はリョウヘイをみつめながら、この人は、男らしく、誠実な雰囲気のまま、知り合った時のまま 年をとっている・・・
そう感じた。
「お嬢さんはまだ通院されてるんですか・・・」
リョウヘイは、以前、この病院の廊下で 会った時に聞いた、カウンセリング室に通っているという娘のことが気になって尋ねた。
ただ、以前と違い今日の絵里は顔色がよかった
若草色のアーガイル模様のセーターを品よく着こなした絵里を見て、ずっと自分の心の中にいたそのままの、美しい彼女を見た。お互いに年を重ねてきたが、まったくかわらない、暖かい絵里の笑顔をみつめた。

「娘は自殺未遂をしたんです。」
「でも・・やっと最近 元気を取り戻してきたんです。」
リョウヘイは絵里の話を黙って聞いていた。
絵里が娘のことでどれだけ心を痛めてきたか、容易に想像させた。
「高岡さん、お子さんは?」
「今 5歳になる男の子がいます。コウヘイって言うんです。」
絵里はリョウヘイのことばを聞いて嬉しそうに頷いた。
「結婚して子供も生まれ、アキコを愛そうとしました。
でも今アキコはコウヘイを連れて国立の実家に帰ってるんです。」
「・・・え?・・・」
「自分がつくづく 昔から変われないことがいやになります」
「子供を愛しています。でも アキコを大事に思ってきたけど、愛することができなかった。
アキコもそんな僕に愛想をつかして実家に帰ってしまったんです。」
絵里はリョウヘイがあまりにも率直に自分のことを話しはじめるので、何も答えられずにだまっていた。
リョウヘイは 自分が絵里に告白することによって絵里によけいな動揺を与えてしまうことは充分承知していたが、今 彼の気持ちをすべて話せる相手は絵里しかいなかった。
そして、もしかしたら、もう絵里に会うこともないと思うと、絵里に聞いてほしいと思った。彼女とのけじめをつけるためにも・・・
「絵里さん。アキコは僕がいつになっても絵里さんを忘れられないことを知っていたんです。」
「いつも一人になると、あなたと過ごした時間を思い出していた。白馬の夜から・・・」
国立にアキコが帰った前日、リョウヘイはアキコのつけているコロンの香りに絵里を思い、たまらずにアキコを抱きしめたことを思い出しながら続けた。
「10年以上たつのに、自分でわからなくなりました。
自分が求めているものがなんだったのか・・・あなたへの思いが愛なのか・・・」
「高岡さん・・・」
絵里は、自分の心臓の激しい鼓動がリョウヘイに気づかれないかと心配した。
「一生 アキコとコウヘイを守ってやらなければ、と頭ではわかってるんです」
しかし、そうやって、リョウヘイが家族を大事にしようと頑張れば頑張るほど、アキコを苦しめてきた。
絵里を忘れられないまま、嘘をついたままでいることが。
「高岡さん。あなたとのことで私は娘の心を傷つけました。私の犯した罪はちゃんと私に帰ってきたんです。」
「娘の今回のことは本当に苦しかった。毎日 自分のことを責めました。やっと 娘が私に心を開いてくれるようになって本当に嬉しかった」
絵里も自分の思いをそのままリョウヘイに伝えた。
「お子さんに、娘の様なさみしい思いをさせないで。」
リョウヘイは下を向いて、わかってます。
と小さく言う。まるで絵里のことばを、ありふれた建前だと責めているようだった。
あなたの心の中の叫びが聞きたいんだと言っているようだった。
少し間をおいて唐突にリョウヘイが絵里に尋ねた。
「絵里さんにとっては僕とのことはもう昔のことなんですか?」
絵里は、どう答えていいのか黙ってしまった
リョウヘイのまっすぐな気持ちを告げられて動揺した。
自分にとってはリョウヘイとのことは本当に昔のことなんだろうか・・・
絵里はわかっていた。
自分の目の前の、不器用なこの男の心を分かってあげられるのは自分しかいないと言うことを。
また、孤独な自分をありのまま理解してくれるのもリョウヘイだけだと思った。
絵里は目をつぶった。
先週 初めて一緒に由香とカウンセリングに来て主治医と三人で楽しく会話できたことを思い出していた。
絵里を見て話す、由香の嬉しそうな顔を思った。
由香・・・・・・
絵里は膝に置いた手が震えているのを隠すためにぎゅっと握りなおした。
顔をあげ、絵里はリョウヘイの目をまっすぐ見て言った。
「あなたとのことは、もう終わったことです・・・」

二人はレストランを出て病院の外に出た。
道路までつづく歩道の両脇の桜並木を歩いた。
桜のつぼみが膨らみかけていた。
この分だと来週あたりには満開になるだろう。
絵里はリョウヘイに会釈をして駅の方に向かって歩いていった。
そしてリョウヘイは絵里の背中を見送りながら駐車場に向かって歩き出す。
国立で、自分を待つコウヘイを思いながら・・・

                   完
by juno0501 | 2007-02-22 21:39 | 聖域 ⑧
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