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ONE LOVE ⑭

本格的な映画制作が始まった。
細部にまで拘るM監督はこのファンドの資金約三十五億ウオンでは さまざまな部分を妥協せざるを得なかった。
しかしユリのシナリオは主要人物も少なく、どちらかというとHの心理描写などに重きを置いている内容であり、舞台装置も特別に高価なものをそろえる必要がなかった。
製作発表も興味本位のマスコミが多少集まっただけで寂しい記者会見だった。
Hには厳しい質問が飛んだが
「今回の映画に関係のない事なので・・・」とM監督がそれを制した場面があった。
その後全員スタッフの揃った打ち合わせの後、監督がユリに声をかけた。
「音楽、期待してるよ」
ユリは明るく言った。
「もう ほとんど出来上がってるんです。話を書き進めながら同時にメロディが浮かんでくるんですよ。レコーディングさえ終わればCD-Rにおとしてすぐにお持ちします」
M監督はユリの笑顔がまぶしかった。
あのインタビューの時の透明感、聡明さ、それにたおやかさと自信のようなものが加わったユリを見た。
しばらく見とれてしまいユリの顔をじっと見ていた。
「監督・・・?」ユリに怪訝な顔をされ、ハッとして
「ユリさん。君 幸せなんだね。今」と言った。
ユリは照れたように笑った。

撮影は当初から監督自身のたてた綿密なスケジュールに乗っ取って順調にすすんだ。
初日の休憩時間にコーヒーを飲んでいるときにM監督とHは主人公のキャラクターの設定を話し合っていた。
Hの話に頷きながら、
「そんな感じでいいんじゃない? この話はあまり難しく考えないでやってみよう。
INPROVISE(即興)、例えば、台本与えられて、読んですぐに舞台で演じるような・・・」
「だからこそ、今回の役は君にとって、楽なのか難しいのかよくわからないが・・・君のそんなところを見たいね」と言った。
Hはユリにも数日前に言われて、そのことを考えていた。
監督の演出に従い、今回は自分の、その時感じたまま、エモーションに動かされるままでやってみようと思っていた。

ユリはHに撮影所に来てみれば?と何度も誘われたがけして行こうとしなかった。
現場の風景は見たくてしようがなかったが、UPする日まで感動をとっておこうと決めた。
同時に自分の書いたシナリオがどういうふうに形になっていくのか興味があるというよりも怖い・・・感覚があった。

ユリは音楽担当としてサウンドトラックについては早々に曲は完成していたが、今回はアコースティックな音にこだわり、いつも多様していたシンセサイザーは一切使わずにアコースティックギターの音を中心にして曲を書いた。
ギターソロ、ギターアンサンブル、ギターとウッドベースなどユリがイメージするこの作品の持ち味を生かして作り、すでにNYのジョディに連絡を入れ、「MOVA」のメンバーに全曲のレコーディングを依頼してあった。
ギャラが満足に払えないかも・・・という遠慮がちなユリの申し出に ジョディは言った。
「ぜひやらせてちょうだい!私 いつかユリの手がけるサントラ製作にも参加したいと思ってたのよ。」
そしてエンドロールに流れる曲にはジョディの歌う一曲を入れた。
ユリは一旦渡米し、メンバーとの再開を喜びつつ、ほぼ一週間で全曲のレコーディングを終了した。
ユリは思い通りにできたことに満足していた。
CD-Rにおとして監督に渡すと、ユリは映画以外の自分自身の仕事にとりかかった。

Hは よく、M監督を連れて二人のマンションに帰ってきた。
M監督はHより十歳年上でバツイチで現在独身のせいか、夜中まで撮影にかかると、撮影所の仮眠所で食事もとらずに寝てしまうのをHが見かねて一緒に連れて帰ったのだった。
二人は夜中近くに帰宅することがほとんどだったので、ユリの手作りの夜食を食べて、少し眠りそして朝、二人を起こして撮影所までユリが車で送る・・・そんな毎日だった。
Hを見ていると睡眠時間が十分とれていなかったが、充実していることがよくわかった。
食事時に話す内容で撮影が大体どこまですすんだかユリにも手に取るようにわかった。
自分たちが映画作りの真っ只中にいることが信じられない気持ちだったし、ましてユリの書いたシナリオが現実に作品になりつつあることを考えると身の引き締まる思いがした。

八月初旬にクランクインし、かなりのハイペースで撮影が進んでいた。
秋になっていた。
HはよくM監督と連れ立って帰宅することが多いため、ユリはいつものように多めに夜食を作って待っていた。
十時。いつもより早くHが一人で帰宅した。
「あら、今日は一緒じゃないのね」
ユリがそう言うとHはユリを抱きしめた。
「ユリ・・・誕生日おめでとう!今年はNYに帰れなかったね。」
そう言って小さな箱を取り出した。
中には真珠のピアスが入っていた。
「少し前ならどんなものでも選べたんだけど・・・ごめん」
Hは照れたように言った。
ユリはそれを受け取ると、そのピアスをみつめ「ありがとう・・・」と言った。
「私も今日、あなたへの感謝の気持ちを用意しておいたの」
プレゼントの中身は、ZIPPOのライターだった。
シルバー製でサイモンというデザイナーの手による、全面にネイティブアメリカンの植物模様の手彫りが施されたしゃれたものだった。
Hが気に入って使っているベルトのバックルに合わせた雰囲気のものをユリはずっと探していたのだった。
Hはそれを手にとって何度もつけたり消したりしながら
「これで またタバコがうまくなりそうだな!ありがとう、ユリ! でもタバコの本数は増えないようにしないとね。」
といたずらっぽく笑った。
「でも普通は、もう少しタバコを控えて・・・とか、言われないかと思ったこともあるんだ。僕の体のことを心配してファンからはよく言われるんだよね」
Hがそう言うと
「だって H タバコが似合うもの!あなたは!」そう言ってHの頬にキスをした。
Hはユリの誕生日をソウルで2人で迎えることができて本当に嬉しかった。
「ユリ、ありがとう。よかった。今日は監督に、ユリと待ち合わせしてるからって先に帰って来たんだ。今日はどうしても二人きりでいたかったから」
Hとユリは2人が出会ってから今日までにいろんなことがあったことを静かに思い返していた。
今 ユリが自分のそばで微笑んでいてくれることがHには最高に幸せだった。
ユリも同じだった。
今までのことを思えば信じられない程自分は強くなれた。というより元の自分に戻れた。
ジョディに言われた通り、自分がHのそばにいることが彼の幸せであることを今は実感できたし、ユリにとってもHがそばにいてくれることが自分の幸せだった。
Hはソファに座りなおすとユリを抱きしめて髪の毛にキスをした。
長い睫毛に、頬に、そして柔らかなユリの唇にキスをしながらHは思った。
「この映画をきっと成功させてユリにプロポーズしよう・・・」

季節は冬になっていた。
監督の残された猶予期間が迫ってきていた。
最後の主役の男のモノローグのシーンさえ撮ればこの映画の完成というところまで来た。
Hはさほど緊張せず、クランクインの時から ゆったりと素のままで演じてきた。そのままの雰囲気でそのシーンに臨んだ。
そのシーンは20分に及ぶ容疑者役のHの法廷でのモノローグであり、判決を前に語り始める容疑者の心の内・・・黙秘を続ける容疑者の心―家族への思い、恋人への思い、母親殺しにまつわる意外な事実も含めて、クライマックスシーンの中でもHの一番の見せ場だった。
それを1カットで取るため、現場のスタッフはみな少し緊張して見守っていた。
ユリは家にいて、いくつかの仕事をこなすためにピアノの前に座っていた。
「うまくいったのかどうか」が気がかりだった、と言うより「ちゃんと無事に終わったのか」が心配だった。
ラストシーンはユリが何度も何度も書いては消し、また考えて少し変えてみたり、かきあげるまでに一番時間をかけた場面だった。
Hの演じる主役の容疑者がどう語るのか?
ユリは落ち着かない気分で家にいるのをやめ、撮影所に行くことに決めた。
現場につくと、Hを中心にスタッフみんなが拍手をしているのが見えた。
「無事おわったんだ!」
ユリは嬉しくなってその場所にかけていった。
監督から花束をもらったHがユリをみつけて大声で叫んだ。
「ユリ!」
皆 一斉にユリを見た。
チノパンにキャメルのタートルネックのセーターを着た化粧っけのないユリがHに近づいた。
Hはユリを抱きしめて、監督からもらった花束を渡した。
スタッフは皆 涙をぬぐっていた。
ひとつの映画を制約の多い中で苦労して作り上げた。
尊敬できる監督、俳優に出会え、いい映画を作り上げることができたことで皆 充実感で満たされていた。
M監督はユリとHの肩を抱きながら
「ゆっくりしてもいられないよ。これから編集して、公開にむけて動き出さないとね」
と言った。

クランクアップしてからのM監督は編集作業で睡眠時間がとれないほど忙しかった。
彼の猶予も1ヶ月ちょっとしかない。
連日の徹夜でなんとかそれを終えると試写の日が決まった。
その日、ユリはM監督とHとは別にその試写室に入り、一番後ろで一人で上映を待っていた。
Hはきょろきょろしながらユリを見つけると、安心したように他のスタッフと真ん中に座った。
今朝 ユリは「今日は一番後ろで一人で見させて」とHに告げ、Hは試写室の最後列の真ん中の席に「RESERVED」の紙を貼っておいてくれたのだった。
映画が始まった。
ユリはスクリーンをみつめながら静かに見ていた。
完成した映画にはユリの映画への思い、主人公への思い、スタッフ達の思いすべてが込められていた。
110分間の上映が終わると皆 拍手をした。涙をぬぐうもの、隣のものと抱き合う笑顔のスタッフ・・・
M監督はユリの方に向かって歩いてきた。そのすぐ後ろにHがいた。
M監督は「ユリ先生、いかがでしたか?」とわざとあらたまって聞いた。
ユリはいきなり 監督の首に手をまわし、抱きついて
「ありがとう!・・・」と言った。
それ以上、何も言えずに嗚咽していた。
大粒の涙をポロポロと流していた。
M監督はふいにユリに抱きつかれ驚いたが、ユリを抱きしめながらHに向かってピースサインをして「役得役得」と言った。

映画は完成した。
ただこの映画の公開はずっと交渉していたが、やはり全国展開を受けてもらえず、単館上映でスタートするしかなかった。
全国ロードショーを強く希望しあちこちにかけあったが映画の内容を聞く前に門前払いだった。
Hとユリは希望を捨てなかった。
単館でもヒットにつながればロードーショー展開もありうる。この映画にはその価値があると信じて疑わなかった。
映画の宣伝も地味だった。
単に予算がなかったのだが、TVやインターネットに映画情報を流すことも限定された。

映画の公開日、単館ながら初日はHのファンで埋め尽くされ、Hは遠くから見に着てくれた客の顔を見ながら感謝した。
批評家も、絶賛してくれた者、好意的な批評をくれた者が多かった。
映画批評誌「映画人」は「いままでのHから一皮むけた感のある彼の演技は特筆すべき点」とHを高く評価してくれて、星取表も5段階の5になっていた。
ただ、初日はともかく、宣伝が行き渡ってない単館上映ということで、コアな 映画ファンがパラパラ見に来るだけで、席が埋め尽くされる・・・ということは無かった。
口コミでじわじわと観客は増えてはきたが、結果的には興行成績には結びつかなかった。
Hとユリはこの結果に何か、消化不良のような、やり足りないようなものを感じて、どうやって自分たちを納得させるか毎日自問自答した。
マスコミは
「H 惨敗!」
「中身はともかく宣伝力不足」
「結局資金面での手当てもできないHの見切り発車が失敗のもと」
そういったコメントが相次いだ。

Hとユリは自分たちの映画に出資してくれた個人投資家(主にHのファンが多かったが)に元本割れで償還することを考えると心が沈んだ。
全面的に協力してくれたスタッフにだってギャラと言えるほどのものが払えていなかった。

3週間の上映期間が終わり、興行収入、観客動員数はHとユリの期待に反した低い数字だった。
監督はその結果に渋い顔をして
「俺たちの自己満足で終わる映画のはずないんだよ!」
と叫んだ。
1週間後、M監督は次の仕事のために韓国を発った。

苦労して作り上げた自分たちの映画が、あっけなくおわってしまったことに二人はまだ納得できないでいた。
ユリの仕事は特別減ったわけではなかったが、Hについては韓国内での仕事が全く入ってこなかった。
今回の「CLOUDY HORIZON」の興行的な失敗が彼のイメージを払拭させることができなかったばかりか、かえってイメージダウンにつながったとも言えた。
Hは失意の中にいた。
自分とユリは家を売ってまで映画のために投資した。
批評家たちは一様に高い評価をしてくれたが、でも結果は?
自分は降板のきっかけになったあの番組で単なる理想論を展開しただけなのだろうか・・・
質が高ければ結果がついてくると自分は断言した。
今の状況を考えるとその絶対的な自信さえゆらいできた。
Oプロデューサーの高笑いが聞こえてくるような気がした。
「映画制作の本当の苦労を知らない青二才め!思い知ったか!」
Hはたばこを立て続けに吸った。

依頼されたCMの曲を作っているユリをHは窓辺のソファに座ってじっと見ていた。
ソファの前の低いテーブルの上には何冊かの映画誌、映画批評誌が置いてあった。
先日 上映が終了し、はっきりと興行的な失敗を自覚させられたばかりだったが、Hは
いいようのない虚しさの中にいた。

今まで何作もの映画に出演してきた。
それらすべてが大ヒットした訳ではなく、興行成績だけで言えば初期の作品などは失敗と言えるものも何作かあった。
しかしHにとってはあくまでも興行成績は流行や人気に左右されるものと考えていたし
自分が精魂こめて役作りをしたことに対して後悔したことは一度もなかった。
批評家達は「CLOUDY HORIZON」を一様に高く評価してくれた。
容疑者として語る最後のシーンを絶賛してくれた「映画人」のコメントをHは何度も読み返した。
でも、今回 彼はどうしても興行成績にもこだわりたかった。
それは、ユリが自分のために書いてくれたシナリオだったということももちろんだったが
このすばらしい作品が限られた観客にしか見てもらえずに上映期間を終え、監督や自分のために集まってくれたスタッフに充分報いることができなかったことがHを失望させていた。
ユリもおそらく同じ気持ちでいたとは思うが、彼女に対しての多くの仕事が落ち込む時間をユリに与えなかった。
Hにも韓国以外のアジア圏からのオファーは来ていて、今日も事務所に行った時に社長に叱咤されて帰宅したばかりだった。
「気持ちを早く切り替えろ!お前はいつもそうして来ただろう?」
社長に言われてHは力なく笑った。
そう、なぜ自分はいつもの様に切り替えができないのか?
自分から仕事を奪った業界に対してのうっぷんがはらせていないせいなのか?
そうかもしれない・・・とHはつぶやいた。
「スタッフのために、と言うより自分のプライドを満足させたかったのが本音なのだろうか・・・」
Hは頭の中でそれを否定しながらどうすれば前向きになれるのかを考えていた。
いつも次の仕事に取り掛かればその仕事に没頭できるはずだ。
Hはユリのピアノを聞きながらユリに微笑むと社長から渡されたいくつかの仕事について検討を始めた。

ユリは上映期間が終了してからHが気落ちしていることが気がかりだった。
自分の作品がHを主演に据えて現実に映画にすることができたことが最高に幸せだったし、その作品が自分の想像をはるかに超えたすばらしいものになったことに対して、H
、そしてM監督には感謝の気持ちでいっぱいだった。
興行成績は振るわなかったが、自分達は資金面の制約以外は一つも妥協せず持っている能力を総動員して、スタッフ全員で力を出し切ったのだ。
それでよしとするしかない・・・そう思っていた。
しかしHについては割り切れた自分と違って、どうやら未だに消化できないようだった。

夕食を終え、ユリは残っている仕事を片付けるためにピアノに向かっていた。
ふと気づくとすでに12時をすぎていた。
Hはいつのまにかリビングにはいなかった。
ユリは小さくため息をつくとバスルームに行きシャワーを浴びるとリビングに戻り、今日買ったボサノバのCDを聞き始めた。
ボサノバのリズムを刻む乾いたギターの音色が心地よかった。
しばらくそれを聞いていたが、ユリはふいに音楽を止めてそのCDを取り出すと、それを持って寝室に行った。

ベッドで横になりながらHはオファーのあった海外からのいくつかの映画の企画書を読んでいた。
寝室に入ってきたユリに気づくとHはにこっと微笑んでキルトを持ち上げてユリを促した。
ユリはすべるようにHのとなりに入り込むとベッドサイドのコンポにCDを入れた。
さっきまでリビングで聞いていたボサノバが寝室に小さく流れ始めた。
「素敵な曲でしょ?」
「最近 私ボサノバばかり聞いてるの」
ユリがそう言ってHを見るとHもしばらく流れている曲を静かに聞いていた。

「あなたを興奮させる企画はあった?」
ユリがHに聞くと
「強いて言えば・・・香港の映画が今のところ一番おもしろいかもしれない」
そう言うとHはまた企画書を読み始めた。
ユリはしばらくHの顔を見つめると体を起こしHの顔を優しく撫でながら軽くくちづけをした。
そして着ていたTシャツを脱いでHの顔を自分の胸元に持ってきて抱きしめると、優しくHの髪を撫でた。
Hはユリの胸元に抱かれたままユリの白い、柔らかな乳房に唇をあてた。
Hの髪をなでながらユリは言った。
「H・・・納得できない仕事なら無理にしない方がいいと思うわ。今までのスタンスを変えるべきじゃないと思う・・・」
ユリはHが韓国の映画界に認めて欲しかったという強い思いを充分わかっていた。
Hは黙っていた。
「あなたが今回の私たちの映画がヒットしなかったことで気落ちしていることはわかってるわ。もちろん私も残念に思ってる。でも・・・」
「CLOUDY HORIZONであなたは私の想像以上に、本当に役者としてすばらしい演技をしたと思ってる。あなたを主役にして書いたシナリオだけど、それが現実に映像になって見たときの感動は今でもはっきり覚えてるわ」
ユリは試写会の時の震えるような感動を思い出しながら言った。
「あの映画で、何か心残り、ある?後悔すること何かあった?」
Hはユリの胸に頭をゆだねて、右手で乳房をもてあそびながら「いや」と言った。
「H、あなたがスタッフのことやファンドに投資した人たちのこと、そして今回の映画が私のシナリオだったってこと、それを考えていることはよくわかってる。」
「でも、スタッフもファンもそして私も、あなたが役者として納得する仕事ができたかどうか、それがいつも一番大事なことだと思ってるの」
そう言うとユリはしばらく黙ったままHの髪の毛を撫でていた。そして言った。
「あなたのことを誇りに思ってるわ」
ささやくように、しかしきっぱりと言ったユリの言葉を聞いてHは顔を上げた。
そしてクスっと笑いながら言った。
「どんなときでも、やっぱり女性の方が勇敢だね」
Hはそう言ってユリを見つめ、体を起こすとユリの頭の下に左手を入れ、右手でユリの額の生え際をなぞると、ゆっくりと唇を重ねた。
ユリの白い滑らかな曲線をやさしく撫でながらHは思っていた。
「一番残念なことは・・・君にプロポーズをするのがまた遅くなってしまったことかもしれない・・・」
by juno0501 | 2007-02-08 01:23 | ONE LOVE ⑭
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